文語文 練習帳

文語文を用ゐてエッセイ的の文章をつづる練習帳。

インディアンス

 有り体に言ひて、今年のM-1グランプリは期待に及ばざるの感 大なりき。

 ・・・と言はんよりは、去年余りに豊作なりきと言ふべき歟。去年は最終戦の三組を見て結果発表を待つ間、「いづれのコンビ優勝すとも納得なり」と思へり。いま思へば幸福なる時間なりきと言ふべし。他方、今年の同じ時間には「いづれのコンビ優勝すとも不服なり」との感ありき。

(念のため言はば、決勝に進みたる三組とも、第一ラウンドにては面白かりき。されど最終戦は三組いづれも勢ひ落ちたるを感ぜり。ただ、あの三者にて言はばマヂカルラブリーが一等なるべしとは思ひたれば、結果には異存なし。マヂカルラブリーは(この三者間にては)第一ラウンドも最上なりき)

 さて吾人の感想にては、今回最も面白き漫才を披露せしは、敗者復活して且つ一番手を務めしインディアンスなり。


インディアンス【決勝ネタ】1st Round〈ネタ順1〉M-1グランプリ2020

※今年より公式動画の公開されたるは吉報なり。

 

 インディアンスは、吾人のよく視聴したる『にちようチャップリン』の常連なり。そのため彼らが決勝戦に勝ち上がりたるを見て、親が子を見守るがごとき気持ちしたり。されど、吾人がM-1にてのインディアンスを高く評価するを、単に贔屓目によるものと見なし給ふべからず。

 元々彼らの漫才は田渕がマシンガンの如くボケ倒すところに魅力ありとす(手数多き漫才は吾人の好むところなり)。よりてインディアンスの魅力=田渕の魅力と見なされがちなるべし、また吾人もそのやうに思ひたりき。

 しかるに今年のM-1にての彼らはさにあらず。何となれば、田渕のボケを捌く"きむ"にもまた高き技術の認められたれば也。田渕のボケは明らかに少なからぬアドリブを含みたり、されどきむは的確にそれらに突っ込めり。言はば二人が二人して当意即妙に会話を盛り上ぐる、理想的なる一回性の漫才を現出し得たりと評すべし。

 されど順番の不運もありてか、彼らは優勝はおろか決勝にだに残る能はず。彼らのほか今回のM-1にて吾人が殊に面白く思ひしはニューヨークと錦鯉(いづれも事前の印象は宜しからねど、実演を見て印象を改めつ)なりしも、いづれも決勝進出かなはざるは至って残念なり。もしこの三者にての決勝を見ること得ましかば、今年のM-1への吾人の印象も随分異ならましを。