文語文 練習帳

文語文を用ゐてエッセイ的の文章をつづる練習帳。

楽しきレット・イット・ビー

 ザ・ビートルズの活動期間中に制作せられし映画の内、『レット・イット・ビー』(1970年)のみは現在に至るまで公式にソフト化せられ居らず。彼らの代表曲(の一つ)を名に冠する公式映画なるに未だソフト化せられず(VHSもDVDも也)とは、ファンならざる人にとりては不思議に思はるべし。他方、この映画を実見したる人にとりては、未ソフト化の理由、顕然たり。

 暗き故なり。

 本作は(のちに『レット・イット・ビー』として発表せらるる)アルバムのレコーディング・セッションの様子を捉へたるドキュメンタリー映画なるが、セッションの雰囲気の良からざること明らかにして、バンド内の軋轢を窺はしむるに充分なり(とは言へど、マジに険悪なる場面は当然カットせられたらんが)。のみならず、スタジオ(有名なるアビー・ロード・スタジオには非ず)の風景も、如何にも寒々しく見ゆ。

 ビル屋上にてのゲリラ・コンサートの様子は素晴らしくはあれど、全体的には観客を楽しましむとは言ひ難きムードなりき、と記憶す。未ソフト化 宜なるべし。

 さて、この時期のビートルズを題材とする新たなるドキュメンタリー映画が制作せられたることは以前より知りたり、また「あのセッションのポジティブなる面を示す」といふ趣向なることも聞き及びては居たり。さうして先日、映画の雰囲気を示す動画 公開せられつ。


The Beatles: Get Back - A Sneak Peek from Peter Jackson

 これは・・・吾人の予想以上なり。予想以上に、彼ら四人は楽しげに振る舞ひたり。これは見たし、さう思はしむる映像なり。

 按ずるに、「真実」は旧映画と新映画との"あはひ"のいづこかに在るべし。則ち、あのセッションにはネガティブなる面とポジティブなる面との両方存せしならん。前者は、旧映画にて既に窺ひつ。されば新映画にて後者を見ること、歴史の真実に一歩近付くものと言はば言ふべし。

 とまれ、険悪ムードなりしものとしてファンには知らるる晩年のビートルズの、楽しげなるレコーディング風景を、美麗なる映像(驚くほど美麗なり。レストア技術に感嘆せらる)にて鑑賞する――これ大いに楽しみとせざるべからず。

 新映画『ザ・ビートルズ:ゲット・バック』は、本来は(旧映画の公開50周年となる)本年に公開の筈なりしが、コロナ禍のため延期せられぬ。来年に公開せらるる予定なり。上の映像は、鑑賞の日を心待ちにせしむるものなればファンは須くチェックすべし。