文語文 練習帳

文語文を用ゐてエッセイ的の文章をつづる練習帳。

情けは人のためならず

 マスク生活も三年目となれり。

 吾人いままで、マスクにとりての敵は冬なりと思へりき。隙間より洩る息のために眼鏡の曇る故なり。

 しかるに、2022年の6月を迎ふるに至りて、真の敵は夏ならしと感ず。言ふまでもなく、この時期尚早の酷暑のためなり(吾人の暮らす近畿地方では、6月29日に梅雨明けせり・・・もとい、梅雨には入(い)らざりきと見るがより適切ならん)。

 無論、現代日本の夏におけるマスク着用の危険なることは夙に重々指摘せられたりといへども、吾人これまではそれを実感することなし。

 しかるに先日、教室にて講義をしながら、いつしか頭(かしら)の のぼせたるが如くボオっとせるを自覚しつ。慌てて傍らの麦茶を口に含みて以て難を逃れたり。

 しかしてその麦茶は――これ授業開始前に学生諸君に「熱中症対策に水分補給を励行すべし」と喚起せんがために持ち込みたる物なるは、皮肉と言ふべし。