文語文 練習帳

文語文を用ゐてエッセイ的の文章をつづる練習帳。

変はる習慣

 習慣とは、容易に変はらざるものにして且つひょんなことより一変もするものなり。

 自身を省みるに、ここ10年における最も大なる習慣の変化は、現金の使用にまつはるものなり。

 10数年ほど前、交通系ICカードを入手せり。しばらくは文字通り交通機関の運賃支払ひに用ゐるのみなりしを、やがてコンビニや本屋などの支払ひにも使用拡張するやうになれり。またこれに応ずる如く、それまでは「手持ちの現金にては払ひきれぬ高額支払ひの時に(のみ)用ゐむ」と思ひたるクレジットカードも、身近なる支払ひに用ゐるやうになるに至る。

 かくして現在の吾人が財布より現金を取り出だすは、自動販売機と近所の定食屋と、あとは週に一度の募金の際にほぼ限られたり。それまでは逐一の買ひ物のたびに現金を勘定したりしことを思へば、これ大なる習慣変化と言はざるべからず。

 

 また比較的近年の習慣変化として、「歯磨きの締め括り方」なるものあり。

 諸賢は、歯磨きを終へたる後、口中の泡をいかにし給ふや。吾人は従来、それを洗面台に吐き出だして後、更に水もて口中をゆすぎたりき。しかるに、「吐き出だすのみにて可なり。加へてゆすぎをもせば、歯磨き粉の抗菌成分の流れ落つれば宜しからず」との一説を目にす。ゆすがざらば口中の違和感著しかるべし……と吾人大いに疑念したれども、ものは試しと思ひてゆすぎを省きき。しかるに別段の違和感もなければ、以来そのやうにし来たる。

 これ2、3年前のことなり。30年間の習慣がかくもあっけなく変ずるを見て、習慣といふものの特質に感じ入るところありけり。