文語文 練習帳

文語文を用ゐてエッセイ的の文章をつづる練習帳。

If you want it.

 いま、ウクライナにおいて戦争行はれたりと聞く。

 戦火は(近年に限りても)これまでにも世界の様々なる国と地域とにおいて生じ来たること、知らざるにはあらずといへども、これほどまでに「侵略」といふ意図をあらはにして、しかもロシアといふ超大国が戦争に乗り出(いだ)したるを目にして、これまでに経験なき衝撃と恐怖とを受けたるなり――もっとも、実際に戦争の場に直面したる人々のことを思ふに、恐怖なる言葉だに軽々に用ふなと感ぜらる。

 この情勢にありて、戦火の中にあらざる人間として、また戦火と永久に無縁なりとは断言すべからざる(誰か断言すべけんや?)一人の人間として、どのやうに今ふるまふべしやと、考へを連ぬれども、ただ恨みを――国家のもとに人と人とが殺しあひ、生活が奪はるといふ事態が、何ゆゑに許容せられ、それどころか積極的に敢行せらるやといふ恨みを、ただ胸の裡に抱へて過ぐすより他のこと未だ無し。

 

 戦争のことを考ふる時、吾人の常に想起するは、ジョン・レノンの「Happy Christmas (War is Over)」なり。この歌にて繰り返さるる、

 War is over, if you want it.

といふコーラス、その「if」の重さに、いつも苦々しき思ひを感じたるなり。

 平和を want せざる人の存在すること自体、吾人の理解を超えたることなりといへども、さやうなる人は実在し、かつ かれが大なる権力を持ちたる場合には戦争は現実のものとなるといふことを、世界が目撃したるが今の状況なり。

 しかれども、戦争は一人にては起こすあたはずといふことも事実なるべし。そこにまた、この歌を歌ひ続け、訴へ続くる意味もあるべしと信ず。