文語文 練習帳

文語文を用ゐてエッセイ的の文章をつづる練習帳。

『SMAP×SMAP』の思ひ出

 小学生の頃、我が家には「子供は夜9時半までに就寝すべし」なる規則有り。それ子供にとりて何を意味するかと言はば、「夜10時台のテレビ番組を見ること能はず」といふことを意味せり。

 しかるに当時――90年代後半のことなりき――午後10時台にいかなる番組の放送せられたるか? 吾人の記憶せるは只一つのみ、『SMAP×SMAP』これ也。月曜日の10時より放送せられたる1時間番組なりき。

 当時、我が家の子供がこの番組を見ることを許さるるは、夏休み等の長期休暇中か、普段と放送日を変へて祝日等に放送したる場合か、若しくは翌火曜日が祝日に当たれる場合のみなりき。当時はいはゆるハッピーマンデー制度の施行以前なれば、火曜日が祝日になるケース今より多かりきとは雖も、低頻度なることは確かなり。よって当時の吾人にとりて「火曜休み」は一種特別の意味を有したり。

 今にして思へば、何ゆゑに『SMAP×SMAP』をかやうに特別視せしか疑問に思はる。彼の6(→5)人組を殊に愛好せしには非ず(ただ、個々としてだに人気有りしメンバーの勢揃ひしたる様子に特別感を抱きたるかとも想像せらる)。また番組内の色々のコーナーを甚だ面白く感じたりとも考へ難し。されば、当時の大人気番組なりしことと、また何と言ひても「普段は見ることを得ず」といふ状況そのものが、吾人にとりての本番組の価値をして高からしめたりと考ふるが最も自然ならん。

 事実、中学生になりて就寝時間の規定がめでたくも撤廃させし後、特にこの番組を熱心に見たりといふ記憶なし。やはり番組そのものの魅力と言はんよりは、一種の特別感の作用なりけん。

 さはあれど、暦の巡り合はせに依りて午後10時に起きたることを許され、あのロート製薬のオープニングを見たる時の高揚感は今も記憶にあり。その意味において『SMAP×SMAP』は今以て吾人にとりて特別なる深夜番組と言ふべし。