人吉よりの贈り物
新年早々、吾人宛てに一つの封書届けり。送り主は人吉市役所とあり。
開けてみるに、今年のカレンダー也。人吉の色々なる場所の写真を配せり。
昨年、コロナ禍のため国が送りたる給付金の大方を、吾人は七月に生じたる二つの災害への義捐金に充てつ。一つ、モーリシャスにおける重油の流出事故、今一つ、熊本県を中心とする豪雨被害なり。
吾人は熊本県に縁故なき者なれど、また吾人 旅行を趣味とする者にあらざれど、人吉は兼ねてより訪れたく思ひたるところ也。その理由は単純且ついささか奇妙にして、ひとへに「雉馬」の故也。
雉馬(雉車とも言ふ)は雉と馬とを混じたるが如き姿の民芸品なり。この雉馬、吾人の幼時、祖母の家の玄関に飾られ居り。吾人これに愛着を覚ゆ。されど祖母の家すでに無く、その雉馬もいづことも知れず失せぬ。改めてこれを手に入れんこと、兼ねてよりの吾人の希望なり。
人吉、この雉車の名産地と聞く。祖母宅の玄関に飾られたりきは勿論数センチの小さき玩具なりしかど、人吉には人の大きさほどなる物も置かれたりと聞く(上掲カレンダーの二つ目の写真右下を見られよ)。いつか彼の地を訪れて、これらの大なる雉車によりて目を楽しましめ、併せて自宅に飾らん小なる雉車を購ふべしと思ひたりき。
さやうなる思ひはあれど実行には移さず居りたる所に、コロナ禍、更に豪雨被害と、訪るること容易に叶はぬ状況となりき。されば、いつ訪るるを得んとは知られねど、ともかくも早期の復興を願ひて吾人の給付金の一部を充てつる也。
と言ふわけにて、このカレンダーは微志に対する返礼品なるべし。
寄付のために却りて手間を取らするは心苦しきことなれど、人吉の様子を写真にして知らせ呉れたるこのカレンダーは、復興を願ふ者にとりて大いに快き贈り物なり。実際に訪問することを得る日までは、之に依りて彼の地に思ひを馳すべし。