文語文 練習帳

文語文を用ゐてエッセイ的の文章をつづる練習帳。

「~してくれる」をいかに言ふか

 文語文で「~してくれる」はいかに言ふべきか。

 口語の「くれる」は文語文法では「くる」(下二段活用)となると推論せらる。しかるに「~してくる(連用形+て 呉る)」はやや不整合に思はる。補助動詞が「して」に接続せることが口語的に響けば也(類例:~しておく ← ~しおく)。されば、「て」を抜きて「連用形+くる」かと思はる。

 さて実例は如何。文語文中の「くれる」と言へば、先づは松任谷由実「春よ、来い」の「愛をくれし君の 懐かしき声がする」が思ひ出さるるも、これは本動詞用法也。補助動詞はいかなりやと「日本語歴史コーパス 明治・大正編」にて検索せるに、「進め呉れたるは好けれど」「救ひくれたる厚恩」の如き例見えたり。則ち動詞の連用形に直接せり。

 但し例数はごく少なし。さは言へ、「くれる(くる)」はいはゆる「やりもらひ」の表現にて、現代の言語生活にて極めて重要な役割を担へり。さればいかに文語文とて、之を全く省きて文章を綴るは困難ならんと思はる。

 より多くの例を実見したくはあれど、差し当り「連用形+呉る」を用ゐんとす。